最近ヒトの間でも「腸内フローラ」や「菌活」に注目が集まっています。皆さんもいろいろなところで「腸」の話題を耳にされる機会が増えているのではないでしょうか?「腸内フローラ」や「菌活」は、ヒトにとってだけ重要なのではありません。もちろんワンちゃん・ネコちゃんにとっても、腸内環境を整えることは健康維持の基本中の基本です。

 

「腸内環境を整えることが大事」、「善玉菌と悪玉菌のバランスが重要」ということをご理解されている方は多いかと思います。腸内環境が整うことにより、インフルエンザ予防、免疫力アップ、アレルギー抑制など期待される健康効果について、これまで多くの研究がなされ、専門家による記事等も多数発表されています。私たちの身の回りには様々なヨーグルト商品や発酵食品があり、日々メディアに取り上げられています。飼い主様の中には、ワンちゃんのフードにヨーグルトを加えたりされている方もいらっしゃると思います。乳酸菌やビフィズス菌に代表される「善玉菌」は、すでに私たちの身近な存在ですが、では「なぜ善玉菌が増えると腸内環境がよくなるのか?」という疑問に対して、十分説明がされることは少ないのではないでしょうか。

 

そこで次の3つのポイントから、この疑問を考えてみましょう。

1.乳酸菌・ビフィズス菌に代表される「善玉菌」そのものを摂取・補充 ー プロバイオティクス

2.もともと腸内に生息している善玉菌の大好物なエサを摂取 - プレバイオティクス

3.善玉菌が腸内でプレバイオティクスをエサとして産生する短鎖脂肪酸 

1.乳酸菌・ビフィズス菌に代表される「善玉菌」そのものを摂取・補充 ー プロバイオティクス

ワンちゃん・ネコちゃんの腸内には、ヒトと同じように、多種多様な菌が生息しています。腸内の細菌の数は、ワンちゃんの体の細胞の数の10倍にもなると言われています。そしてヒトと同じように、ワンちゃんの腸内の菌は、その働きにより「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」に分類されます。善玉菌をいくつか組み合わせて、腸内に補充してあげることで、腸内細菌叢の多様性や善玉菌と悪玉菌のバランスが整えられます。そして消化や免疫機能にも影響します。

乳酸菌・ビフィズス菌には、多くの菌種、亜種、菌株があり、それぞれ特徴や耐性が異なります。例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス菌LA-14は、栄養の吸収を助け、便秘や下痢を軽減するといわれています(*1)。腸内細菌叢の多様性がとても大切なのです。

しかし外から摂取した菌は、腸内に定着(コロニーを形成)することが難しいとも言われています。そのため乳酸菌・ビフィズス菌をペットに与える時には、複数の菌株を組み合わせ、毎日継続して与えることが重要となります。

 

2.もともと腸内に生息している善玉菌の大好物なエサを摂取 - プレバイオティクス

研究者の間では、もともと腸内に生息している常在菌にエサを与えることで、善玉菌を増やすことが腸内環境の改善につながるということも評価されています。では善玉菌が大好物なエサとは、どういうものでしょうか?様々な研究から、「大腸まで届く」、「水溶性」「発酵性が高い」ものが、善玉菌にとって有用といわれています。代表的なものとしては、「水溶性食物繊維」「オリゴ糖」や「イヌリン」が挙げられます。特に「イヌリン」には腸粘膜のバリア機能を強化する作用があるというデータもあります(*2)。

ペットにイヌリンのような水溶性食物繊維やフラクトオリゴ糖など善玉菌のエサとなる成分を与えることも、今後さらに注目されていくでしょう。

 

3.善玉菌が腸内でプレバイオティクスをエサとして産生する短鎖脂肪酸

最近の研究では、善玉菌が食物繊維やオリゴ糖をエサとして産生する「短鎖脂肪酸」の様々な作用が報告されています。短鎖脂肪酸には、酢酸、プロピオン酸、酪酸などがあります。短鎖脂肪酸は主に、大腸から吸収されて体のエネルギー源となったり、大腸などの組織の栄養源として利用されます。さらに腸管の上皮細胞を増殖させたり、腸内を弱酸性の環境にすることで有害な菌の増殖を抑制したりと、免疫改善の働きもします。また酪酸やプロピオン酸が、糖代謝の改善(*3)や炎症性大腸炎を抑制(*4)するなど、健康を維持するために重要な存在となっています。

ペットの健康トラブルの根本には、腸内環境が大いに関係しています。普段の食事に含まれる栄養素や治療で必要な薬を吸収するにも、逆に体に有害な物質を体外へ排泄するにも、腸の働きが影響します。さらに腸と脳の関係についても、近年ますます多くの研究がなされ、その科学的データに注目が集まっています。

 

栄養面からペットの腸内環境を整えるには、バランスのとれた食事が第一です。そして複数の乳酸菌・ビフィズス菌と善玉菌のエサとなるプレバイオティクス(イヌリンやフラクトオリゴ糖)を一緒に継続的にプラスすることで、腸内の劣化予防がさらに期待できそうです。ペットの健康に有用な成分を効果的に与えることで、ワンちゃん・ネコちゃんの腸を健康に保ち、毎日元気に過ごせるといいですね。

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(*1) ファイドバイオティクス社調べ

(*2) Cell Host & Microbe, 2017; DOI: https://doi.org/10.1016/j.chom.2017.11.004

Cell Host & Microbe, 2017; DOI: https://doi.org/10.1016/j.chom.2017.11.003

(*3) Cell. 2014 Jan 16;156(1-2):84-96

(*4) Nature, 504, 446-450 (2013)